黒部・下ノ廊下 第七部
黒部・下ノ廊下も第七回となりました。黒部・下ノ廊下,2018も最終回となります。
今回は志合谷から下界である欅平駅までとなります。
「黒部・下ノ廊下」は毎年関係各位により大規模に登山道が整備されますが、転落すれば生命にも関わることから、俗に「黒部では怪我をしない(死亡する結果となることを意味する)」とされ、それなりの体力と装備を要する登山道です。遊歩道ではありません。事前に調査のうえ、自分の経験と体力を考えて、無理のない山行計画を立て、ご自身の判断と責任で登山をおこなってください!
志合谷
それでは志合谷トンネルに入っていきます。
長さは150m程ですが、照明等は一切なのでライトが必須です。
また内部は若干水が溜まっているローカットの靴で通る際は靴が浸水しないように気をつける必要があります。
トンネルに入ってすぐのところで谷側にに何かよく分からない穴があります。
もともとここが本来のトンネルの一部だったというわけではなさそうですが、排水のためになのか何なのかは妥当な答えが見つかりませんでした。
内部は一部ですが、このように板材と鋼材で天井がしっかりと支持されているところもあります。天井から時たま水が垂れてきて少し冷たい思いもしますが、水が押し寄せへ来て困るというほどではありません。
しかし、しっかりと支持されているのは多く見積もっても全長の半分ほどで、多くの部分では素掘りのままとなっています。
このように局所的に支持材があてがわれた場所などは掘削の際に難義した場所なのかもしれません。
トンネル内部には支持材に使ったH鋼を放棄したのか、内部の掘削した岩を運び出すためレールとして使用したのかはわかりませんが、並行した鉄の棒2本が続いています。
そしてこれが、トンネルの欅平側。
「トンネル内照明必要」とと書かれており、この入口だけ見るとなんかちゃんとしたトンネルの雰囲気を醸し出していますが、半分以上はただの素掘りのトンネルです。
トンネルを出た地点からトンネル入った地点を見てみます。
トンネルに入ってすぐに見える外に通づる穴もここからとはっきり見ることができます。谷にに対してトンネルが小さいのでこれが通路なのかは一見ではでは分かりにくいかもしれません。
この志合谷、以前はこのトンネルの下部に電源開発時代の宿舎があり、1938年12月27日富山県下新川郡宇奈月町志合谷(現在の黒部市)で発生した泡雪崩では、黒部川第三発電所建設に伴うトンネル工事の作業員が宿泊していた鉄筋コンクリート一部木造の宿舎で、木造であった3階および4階部分が川の対岸600mまで吹き飛び84人の死者(うち47人は遺体の確認ができなかった)を出しています。
谷の底を見てみると宿舎の基部が残っているはずですが、この山行きでは宿舎跡を発見することはできませんでした。藪が茂っているため発見するのは正確な場所を知っていないと難しいかもしれませんが、ネット上では宿舎跡の基部の写真が結構出回っていますので確認してみたい方は検索してみてください。
水平歩道
トンネルを通過しても危険な水平歩道は続きます。
歩いていると立派な切通しに出会いました。
平坦になるまで深く切通しを掘削する合理的な必要性があったかは分かりませんが、安心して休憩できる地点であることには変わりありません。
谷側に残された岩の幅が板みたいに薄いです。
高さなどを考えると、何かの拍子に歩道の底部を起点にして亀裂が進展して断裂。そのまま谷底に転がって行っても不思議ではありません。
ここまで歩いてきた水平歩道を振り返ってみます。
紅葉の進みが遅いので上部にしか紅葉が確認できませんが、もっと涼しくなるとこの岩肌の斜面を紅葉が覆いつくすのでしょう。見てみたかったですが、勤め人にはなかなか難しいことです。
また、先ほど通過した大太鼓展望台も眺めることができます。大太鼓展望台の下は切り立っているとというよりも、むしろ垂直よりも角度がある状態です。落ちなくて本当に良かったと思います。
谷側に樹が生えていると心理的に安心感はありますが、安心感があるだけで安全ではありません。上の写真も渡してあるペラペラの金属製の橋を使わなければ、一介のハイカーではとても通行できないでしょう。
志合谷を過ぎてから短いトンネルがいくつか現れますが、本当に短いため陽が出ていればライト等は必要ありません。トンネルはかなり幅広に掘られているため荷物を降ろして休憩するのにちょうどいいです。
慣れると、送電鉄塔への梯子なんかは当たり前にそこに存在します。
ちょっと行ってみたいという好奇心をくすぐられますが、何かあった時のことを考えると実行はできません。
何気なく歩く道も全て人間が掘り進んだと考えると、んでもなく贅沢なことをしている気分に浸れます。
この辺りなってくると視覚的には卑怯感があるんですが、実際にはときたま欅平方面から電車が出る時のアナウンスの放送は聞こえてきます。ついに下界と言うか俗界というか、人間が住むに適した世界に戻ってきたことを実感し始めます。
一方で足元はまだまだ危険なので、気を抜くことはできません。
よく山では「なぜ、あんな場所で怪我をしたのだろうか?」と言われる比較的緊張を要しない場所で事故が起こるというのですが、そもそも山ならどこでも事故は起こりうるという考えが必要なのでしょう。
歩道が木の真ん中を通ってるいるのか、それとも木が歩道にかぶさってきたのか。
なぜこのようになったのかはいろいろ疑問ですが、ここを通るより他にないようです。頭が通るのが150cmくらいの高さだったので屈んで通行しました。研究員は小屋泊なので荷物が少ないので良かったですが、テント泊の通行者は大変だと思います。
裏から見るとこんな感じです。
どうやら谷側に伸びていた部分が折れた感じです。
蜆谷
トンネルに蜆谷の看板を見ることができます。
かなり人里に近づいてきたのになぜか大太鼓の看板よりも色褪せています。
観光名所として大事にはされていないようです。
この険しい山中に立てられた高圧電線の鉄塔が高度経済成長の関西を支え、今現在も日本の一般市民の生活を支えています。
高圧電線がすごい角度で山の斜面を下っていきます。
普段、送電用の鉄塔を上から覗きこむことはないので希少な光景なのですが、ありがたみはありません。
むしろ、これを降るのかと思うと少しげんなりします。
なんか見たことある景色ですが、谷の度に折り返しているので思ったより距離を稼げないばかりか、繰り返し同じような景色を拝むことになります。
雲の少ない空に聳え立つ高圧電線の鉄塔。
ヘリコプターという文明の利器があるのは知っていますが、よくここに立てたと思います。高所恐怖症の研究員は工事のことを考えただけで、足がすくみます。
目と鼻の先を数万ボルトの高圧電線が並走して行きます。
高圧電線を下から見上げることはあっても、このように真横に見ることは日常的に全くないのでちょっと珍しい光景です。電線からは待機中に電気が放電される際の「ジジ・・・ジジィ」という音がはっきりと聞き取れます。
少し距離はあるものの送電線の碍子をほぼ水平方向に見ることができます。
この距離であれば危険はないということはわかっていますが、それでも放電の音を聞くとちょっと背中が凍る思いがします。
水平歩道の執着地点は欅平を訪れた観光客が北アルプスの山々の頂を楽しめるようにパノラマ展望台整備されていますが、その正体は山々の方角と標高が刻まれた金属製のプレートが存在するだけで、全くにぎわってはいませんでした。
水平歩道最後の鉄塔に別れを告げて、欅平を目指して下り始めます。
尾根にある展望台から約300メートル下の欅平駅に向けて降りて行きます。
ここからは観光客の方でも登って来れるように、かなり手すりやステップなどが整備されており一応安全には配慮されていますが、疲れ切った体でこの急斜面を下りていくのはいくら手すりやステップがあるからといってそんなに安全なことではありません。
むしろ金属製のステップに足を滑らせればかなり痛い目にあうのは確実です。
また、どうやらこのあたりは熊も出没するらしく表示があります。
下りの途中には欅平駅を落石や雪崩等から守るために多くのコンクリートと鉄製の防護柵が多く設けられています。
欅平に向けて高圧電線も降りていているので、このように高圧電線と並走して川に降りて行きます
下の方にある送電線の鉄塔の下に欅平駅があるのですが、角度は急すぎて欅平駅を視認することができません
そしてついに欅平に到着。
ここまでくれば「黒部に怪我なし」という言葉も忘れてもいいでしょう。
欅平側の登山口。
しっかりと階段が刻まれていますが、そこに足を踏み入れてみようという観光客は皆無です。
欅平駅
欅平は有名な観光地だけあってスニーカーにロングコートという軽快な服装の観光客の団体が多くいますが、その一方で我々のような黒部ダム方面からから下ってくる者たちは汗だくで疲れ切っており、なおかつ重い登山用具を背負っているためそのコントラストはなかなかのものがあります。
欅平駅周辺では疲れ切った登山者が大きな荷物を地面に置き、脚を投げ出して座り込み、駅備え付けの水場で靴を洗い、冷たいビールを買い求め、俗世への生還を記念して記念写真を撮ります。
一般の観光とは全く違った感動がそこにはあります。
欅平付近は景勝地として十分に観光の価値がありますが、研究員は駅で観光地価格のかき揚げそばをすすり、家路につくことを優先しました。
完全に罰当たりなほどもったいないことをしていますが、生還できたこで十分満足してしまいました。
今回の山行きは異常となります。
2018年黒部峡谷下ノ廊下の山行記録を写真とともに紹介してきましたが、
実はこの翌年、つまり2019年にも下の廊下を歩いています。
この時よりも写真は綺麗なものを用意できたはずなのでぜひ見ていただければ嬉しいです。それではまたお会いしましょう。
黒部・下ノ廊下 第六部