GAFAMのリアルデバイス

GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)といえば近代を代表する巨大テック企業ですが、「Google」は検索エンジン、「Apple」はデジタルデバイス、「Facebook」はSNS、「Amazon」はネットショップ、「Microsoft」はOSと、それぞれの分野で市場を席巻しています。
これらの企業は多くは直接的なデバイスの開発・製造・販売ではなく、ソフトウェア開発とプラットフォームの提供を基本とするサービスを提供しています。
よってMacやiPhoneの設計・販売を行うAppleを除けば、これらの企業のモノとしての販売されている製品が目立つことはあまりありません。
しかし、企業規模からすれば大きくはないものの、上記の企業はいずれもリアルデバイスに対して大金を支出して本気で開発を行っています。
実質それらがこれらの企業に直接多くの利益をもたらしているかといえば、そうでもありませんが、どのデバイスもその企業のサービスの在り方を、スマートフォンという万能デバイスに依存することなく、具体的に見せてくれるガジェットを開発・販売しています。
今回は、そんな普段は意識しないGAFAMのリアルデバイスを振り返ってみたいと思います。

一般人に身近なGoogleのリアルデバイスはAndroidの登場に端を発します。
当時、Symbian OSとWindows Mobile OSが次期携帯端末OS市場を席捲しようと考えていたところ、洗練されたプロダクトと廉価さで市場を塗り替えたのがiOSとAndroid OSです。
iOSはiPhoneというAppleによって管理された単一のプロダクト群にしか使用されませんでしたが、Android OSは条件を満たせば金銭的なライセンス使用料を払わなくてよいため、様々なデバイスに採用されています。
今ではスマートフォンデバイスの過半数に採用され、コンシューマー向けモバイルデバイスの過半数を占めるまでに成長したAndroid OSですが、開発元のGoogleもデバイスを開発・販売しています。

それがGoogle Pixelシリーズと呼ばれるスマートデバイスの主流であるスマートフォンを中心とした製品群。以前はGoogle Nexusシリーズがその役割を負っていましたが、2013年2月発売のChromebook Pixelの登場から徐々にGoogle Pixelシリーズにその役割を譲ってきました。
その役割はGoogle Nexusシリーズと変わらず「純粋なAndroid」としてのユーザーエクスペリエンスを目指すことにあります。
つまり開発元であるGoogle自身が考えるAndroidのモデルケースとなること。
目立った機能・性能は有していないものの、無駄なものがないために、無理のないシステムとなっており、その操作感やユーザーエクスペリエンスは非常に優れたプロダクトに仕上がっています。
また、Googleの提供するAndroid OSのアップデートやサービスが早期に提供されます。
Apple

2007年1月9日にカリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニ・ウェストで開催されたMacworld Conference & Expoの基調講演でスティーブ・ジョブズによって、「本日、Appleは電話を再発明する」との宣言の下、「iPhone」は「タッチ操作のできるワイドスクリーンのiPod」「革命的な携帯電話」「インターネットコミュニケーター」の3つを統合したデバイスであるとして発表されました。

スティーブ・ジョブズは「電話を再発明」と言っていますが、ほぼ同じことを同時代に既に実現できていたSymbian OSとWindows Mobile OSの存在を完全に無視した発言です。
当時Windows Mobile OS派だった研究員は、スティーブ・ジョブズの高慢な宣言に疑問を覚えたひとりでしたが、そのプロダクトの完成度の高さは認めざるをえませんでした。
スペックを主張するのではなく、ユーザーにとって不可欠だとも思わせる体験を提供するAppleの製品群を前に先行していたSymbian OSとWindows Mobile OSは惨敗と口にするのもおこがましいほどの大敗を喫っし、人々の衆目を集めるような覇権争いをするようなこともなく現在に至ります。
以降、Appleはi OS端末を毎シーズンごとにブラッシュアップして洗練度を高めて販売し、ついでに一部の限られたユーザー向けだったMac OSを一般大衆に受ける嗜好品へと変化させてきました。
洗練されたハードウェアとソフトウェアの垂直統合型プロダクトはこれまでにない洗練されたユーザーエクスペリエンスを実現させ、そこから生み出される高いAppleへの忠誠心と利益が、プロダクトをさらなる高みへと向かわせています。

遅筆なので記事を書いているうちに、Facebookが企業名をMeta Platformsに変更されていました。まだ、 Facebookブランドの方が有名なので、ここではFacebookを貫きます。
SNSの雄 Facebook。この人間の根源的な欲望と不安を利用して急成長してきたテクノロジー企業にリアルデバイスなどあっただろうかと思われる人も多いと思われますが、実はFacebook自身が開発したデバイスが存在します。それが「Portal」シリーズです。

「Facebook Portal」はAndroid OSをベースとしたタブレット状のデバイスを中心とする製品群で、カメラの画角内に写った人物を認識し、自動でパンするように追跡する機能を備えるほか、単体でのFacebook Live配信やAmazon Alexa連携機能などを搭載します。
全く知名度がないのは日本では正式に発売されていないからです。
その性能と機能はビデオ通話用途に特化したものになっており、一般的なスマートフォンを使用するよりもはるかに快適にコミュニケーションをとることができます。
ただ、あまりにもビデオ通話に特化してしまったためそれ以外の機能はおざなりになっており、「Netflix」と「Zoom」には対応したものの、相変わらず汎用性は低いです。
スマートデバイスとしては高価すぎない価格であり、機能としても実質単機能なのでスマートフォンを使いこなせない高齢者や、スマートフォンを持たせたくない小さい子供向けには良いのかもしれませんが、使用にはFacebookのアカウントが必要であり、他のスマートデバイスと同じようにFacebookのネットワークに繋がっているため、繋がってほしくない人脈ができてしまったり、家庭のプライベート画像が流出してしまう可能性もあります。
Amazon

本の販売から始まったAmazon、そんなAmazonが電子書籍の販売を始めるのは必然的な選択でした。
電子書籍には,電子に適したデバイス必要です。一般的なスマートフォンで電子書籍を読む場合、常にバックライトを点灯させていないといけないため非常に電力消費が激しくなり、デバイスの稼働時間を恐ろしく縮めてしまいます。
これでは消費者に電子書籍をストレスなく楽しんでもらえない、と考えたAmazonは専用のデバイスを開発します。それが「Kindle」です。

時は流れ、ネット環境の整備と合わせるように Amazon は当たり前のように音楽・映像の配信サービスを始めます。ここで登場したのが「Kindle Fire」です。
「Kindle Fire」はAndroidをベースとするモバイルオペレーティングシステムであるFire OSを搭載したタブレット端末で、基本性能は高くありませんが、Amazonの配信する電子書籍・音楽・映像サービスを享受するのに十分な性能を有し、コンテンツの販売で利益を確保するAmazonの戦略のため、一般的な同一スペックのタブレット端末より安価に販売されています。
また、だれにでも使いやすいように・ラフに扱っても問題ないようにIT機器としては割と頑丈に設計されています。
一方でステータスになるようなデバイスではないため、画面の縁は広く、樹脂製のバックフレームには大きくAmazonと分かるロゴのが捺され、安っぽい印象を受けます。
Microsoft

Microsoft はWindows OSを中心とするソフトウェアを開発・販売する会社であり、 近年ではITサービスで大きな利益で得ている会社です。
Microsoftは長くにわたってPCの中核となるOSを開発してきたにもかかわらず、PC開発・製造・販売の分野には自らで進出しませんでした。
顧客であるデバイスメーカーとの関係や、より不確実性に対処しやすいソフトウェア領域だけで十分に利益を確保できていたためです。
しかし、突如Microsoftは「Surface」の開発・販売を開始します。

Microsoft は自社のサービスに最適化したデバイスを開発することで、PC と言うデバイスの再定義に挑戦しました。
この流れは、デバイスとOSを高度に組み合わせてサービスを展開する Apple に対抗する意味合いが強かったと思います 。
Apple は自社のサービスに最適なデバイスを供給することで、サービスの質を飛躍的に向上させました。一方 でMicrosoft の OS は幾多のデバイス開発企業に採用されながらも、マイクロソフトが思い描く理想的なPCの姿を市場に描き出せずにいました。
そこで Microsoft は独自にPCの理想型を表現できるデバイスを開発することで、自社のサービスをもっと広く一般消費者に印象付けることを目的に「Surface」は発売されました。
「Surface」は初めてPC市場の参入するメーカーの製品とは思えない完成度を誇り、安くない価格にも関わらず、短期間でプレーヤとしての格たる地位を市場の一角に築き上げました。
MicrosoftはそれまでPCこそ開発・販売していませんでしたが、PCという形でなければデバイスの開発経験は豊富な企業であり、製造を委託するEMSとの関係も短くはありません。
マウスやキーボードといった周辺機器や、中身はPCとなんら変わらない ゲームコンソール「XBOX」 シリーズの開発・販売で蓄積された知見が今のMicrosoftが開発・販売するデバイスに詰まっています。