黒部・下ノ廊下 第六部
素人の山行「黒部・下ノ廊下」第六回はかなり更新が遅れたことは否めません。
更新が遅くなっても可能な限り続けていければうれしいですが、研究員の怠惰さは非国民の域に達しているので約束はできません。
「黒部・下ノ廊下」は毎年関係各位により大規模に登山道が整備されますが、転落すれば生命にも関わることから、俗に「黒部では怪我をしない(死亡する結果となることを意味する)」とされ、それなりの体力と装備を要する登山道です。遊歩道ではありません。事前に調査のうえ、自分の経験と体力を考えて、無理のない山行計画を立て、ご自身の判断と責任で登山をおこなってください!
阿曽原温泉から
二日目なのですが、いきなり阿曽原温泉小屋を遠く望む写真から始まります。
ここに至るまでにも見るものがないわけではなかったのですが、補正してもお見せできるような写真にならなかったので、この写真から始まります。
秘境温泉:阿曽原温泉に別れを惜しみながら、この時は翌年もこの温泉を訪れるとは夢にも思わなかった研究員なのでありました。
研究員は結構明るくなってから出立していますが、まだ夜の開けぬ暗い時刻からヘッドライトを頼りに出立している方も多かったです。
理由としては、欅平からの宇奈月行上り列車が予約制であるため、乗客が少ない早い時間帯の列車を押さえるのが目的だと思われます。
阿曽原温泉を出てから阿曽原谷対岸の直ぐ脇の送電鉄塔を目指して登っていきますが、その後このような梯子を登ったり下りたりしながら水平歩道と呼ばれる区間を目指します。
そして、しばらくアップダウンを繰り返しながら樹林帯を歩くと、いきなり視界が開けてきます。
山の中腹を水平に走る線は、まぎれもなく水平歩道。
この水平にひかれた線を歩いていくわけです。
遠くには微かにですが、歩行者の姿を確認できます。
これから自身が歩くルートを歩いている人がいるということは心強いです。
これから歩くルートが目に見えて明確なのはかなり精神的な支えになるのですが、ここから予想される未来はいきなり裏切られることとなります。
折尾ノ大滝
それが、折尾ノ谷の折尾ノ大滝です
そう、谷が幾重にも連なっているので、はるか先は見通せても、ブラインドコーナーのすぐ先の様子は角を曲がるまでわかりません。
前の写真からすぐ先に存在するこの大きな滝も、谷の角を曲がるまで気が付きませんでした。
普通なら観光名所になるような大きな滝のようですが、黒部峡谷を歩いていると、もはやこの程度では全く感動しなくなってしまいます。
だんだん感情がよくわからない方に麻痺してくるのは確かです。
何人かで一緒に座ることができるぐらい大きな平地が存在するので休憩ポイントにいいかもしれません。
対岸を見ると木々の中にうっすらと引かれた水平歩道が確認できます。
オリオ谷(折尾谷)の防砂堤体トンネル
向かって左側の岩の上を歩いてきます。
この辺を池面というよりは岩の上を平らにしただけという感じであり、なおかつきちんと平坦面に加工されているわけではなく、谷の中心方向に向かって若干傾斜しています。
足を踏み外したり、転倒すればどう転んでもとても痛そうなのでしっかりと山側に体重をかけて進みます。
見えてくるのはこの防砂堤です。
こんな山奥なのですがとても立派な防砂堤が築かれています。
なんとこの場所、防砂堤の内側を通る、つまり川底を潜って通るという道となります。
普段街で生きていると防砂堤自体を見ることが少ないですが、このような人里から離れたところで見ることもまた珍しいことです。
内部には水が溜まっており、多少なりとも水の流入がありますが、靴のくるぶし高さまで浸かることはありませんでしたが、雨の後などは状況は変わってくると思います。
また、太陽が出ている時間であればヘッドライトが必要ない程度の暗さでした。
この防砂堤決して小さな構造物ではありません。人が立って歩けるぐらいの大きさを有しています。
おそらく、この水平歩道の谷の渡渉地点を地形の変化や豪雨、豪雪から守るために建造されたと思うのですが、対岸から見るとこの見事な谷底に作られた強固な防砂堤も上方に転がっている岩などを見れば、何かの拍子にそのまま防波堤自体が埋もれてしまっても不思議ではありません。
この防砂堤があるおかげで、この地点は今でもこの様に簡単に渡渉することが可能です。
それにしても見事なV字の谷を形成しています。谷の奥まで見える傾斜を持つ谷を見ることは少ないので、しっかりと目に焼き付けておきたかったのですが、帰宅して写真を見てみると記憶以上にすごい光景でした。
防砂堤を過ぎるとまた単調な水平歩道に戻ります。
見た目はただ単に水平に伸びた水平歩道なのですが、やはり踏み外せばどこまででも転がっていきそうなことには変わりありませんので、気をつけて進みます。
山側にはしっかり伴線が設置されています。研究員のような初心者級の歩行者はありがたく握らせてもらって歩くのですが、このコースだけで比較的新しいトレッキンググローブの左手側だけ穴を開けてしまいました。
所々十分に休憩が取れそうな広い場所もありついつい気が抜けてしまいがちです。この景色だけ見れば普通のハイキングコースのような道なのですが実際は違います。
このようにじように岩をくりぬいたような場所も数箇所あります。こういった場所は高さがなので頭をぶつけることもあるかもしれません。こういう時にヘルメットのありがたみを痛感することがあります。つまり研究員は頭をぶつけたということです。
所々ではが陥没してしまったために、鉄板で作られた橋を渡るということもあります。この鉄板でできた橋、かなり薄いので歩くとボコボコと弾性変形したり、また長年の風雨で腐食が進み鉄板の向こう側が見えてしまうということも珍しくありません。人間が設置したのでおそらく大丈夫だろうなどとという油断はしない方がいいと思います。
朝日に照らされた素晴らしい黒部の魔人ツリガネ山の姿が見えてきました。
山の全景をここまではっきり見える場所もそう多くないと思います。
ここから急に道が細くなります。
道は完全に岩をくりぬいた半トンネルの中を通ることとなります。道自体も平坦に削られている場所はなく、かなりゴツゴツしているばかりではなく、所によっては陥没しています。
また道の縁は申し訳程度に丸太で補強されていますが、非常にありがたいのですが、何か安全を保証してくれたり安心感を与えてくれるものでは全くありません。
そしていよいよこの日のハイライトスポットが見えてきます。
そして、山に沿って水平歩道が延々と伸びていることが確認できます。
その場所に向かう前に、また谷の折り返しを経なければなりません。
ブラインドコーナー折り返しの谷の切れ目の方に歩いて行く途中に黒部川の下流に大きな人工物が見えます。この日のゴール欅平駅が見えます。さらに耳をすませばなんとホームの放送も聞こえるではありませんか。
この旅にもやっとゴールが見えた瞬間でありました。
別にゴールしたいということはなかったのですが、とりあえず生きて帰れそうだということが嬉しかったのは言うまでもありません。
谷の折り返し地点で自分の足元を確認してみると、崖の角度はこんな感じでしたほとんど垂直といってもいっても間違いではありません。
滑落して山肌にしがみ付けるかと問われれば、答えは絶望的です。
また、滑落よりも転落という方が正しいと思います。
木道は非常にありがたい存在ではありますが、さっきの光景を見てしまうといかんせん信用しきることはできません。
自然と左側の伴線を持つ手の力も強くなります。
前の前の写真を撮った時点を振り返ってみますが、やっぱりが崖に歩道が彫ってあるだけで、本来であれば決して一般人が歩けるような場所でないことが分かります。
そして、終にその場所が目と鼻の先といえる近さまで到達します。
ネットに上がっているここでの記念撮影の写真を見る度に、そうでなければいいのだがなどと思っていたのですが、欅平をこの旅の出口に選んだ以上は進むしかありません。
何より、黒部ダムに帰るという選択をすると翌日の勤め人としての営業に差しさわりがあるので、高所恐怖症でも進むことにします。
道幅は安易に振り返ると転落しそうな程狭く、いたるところで道があった場所が崩落していることが確認できます。
大太鼓
「大太鼓展望台」しっかりと書かれています。
研究員の展望台のイメージと全く違いますが、世間ではここを展望台と呼ぶそうです。
研究員は何度確認しても危険な道の途中に銘板が掛けられている様にしか見えません。
また、色あせたウォー太郎も確認できますが、わざわざ載せる必要があったかには大きな疑問符が付きます。
振り返っても、展望台らしさは皆無ですが、黒部の魔人ツリガネ山の姿が視野いっぱいに展開します。
完全にイメージセンサーが飽和していますが、ネットでよく見る画角。
ツリガネ山を背景にオーバーハングした大太鼓展望台という画は間違いなく映えるのですが、それだけを目的にしてこの地にたどりつくのは、タピオカ屋の前で並ぶよりはるかに大きな代償が必要です。
足元を見ると遥か眼下に黒部川の流れ。
あれだけの水量を誇る黒部川が小川の様にしか見えません。
欅平前で水平歩道から欅平前に対して300m程下降するので、見える川の水面は少なくとも300mは先ということです。
簡単に言ってしまえば、東京タワーの高さのビルの幅1m弱の縁を命綱なしに歩いているという状況です。
風がなく、雨も降っていなかったことに本当に感謝です。
本当に山の向こう側まで水平に道が続いています。
上の写真の拡大図。
この山の中では歩行者はかくも小さい存在です。
志合谷
ここも見どころの谷の一つ、志合谷。
折尾谷もそうでしたが、見事なV字の谷で、下から上まで様々な表情を見せてくれます。
そして今なを谷が侵食され姿を変えていっていることが実感できる光景です。
歩道の上部には大きなスノーブロックが確認できます。冬場はこの谷を埋め尽くす積雪となることは容易に想像できます。
この一見危なそうな谷ですが、さすがの偉大な先人たちも最終的に山肌に沿って歩道を造るというのを諦め、山体にトンネルを穿つことで谷を越えるという手段を採用したため、現代に生きる我々のような歩行者も安全に通過することができます。
写真左手から入り、谷を越えて右手から出るというルートになっています。
大太鼓展望台からは迫力がありすぎるツリガネ山もこの辺から見ると全体を視野に収めることができます。
ちょうど先行のパーティーがトンネルを出てくるのを確認することができます。
山から水が出ている地点のすぐ上のあたりがトンネルの出口です。
トンネル内に出水している水を勾配を利用して自然に排出されるようになっているみたいです。
黒部・下ノ廊下 第五部