山好きへのSTAY HOME

GWといえば多くの、多くの山で山開きが行われ、高山帯でも山小屋の春営業が行われます。いつもなら、山に人が集まり始める時期ですが、今年はそういった山の風景は改める必要があります。
新型コロナウイルス(Coronavirus disease 2019, COVID-19/新型コロナウイルス2019による急性呼吸器疾患)に対する登山者の心構えについて、一人の山愛好家としてまとめていきたいと思います。
山行での新型コロナウイルスの感染の危険性
感染・発症が分かりずらい

新型コロナウイルス感染症は潜伏期間が長く、だれが感染・保菌しているか判りません。また、無症状者も多いようなので、結果として誰でも意識していなくても感染を広げている現実があります。
移動での感染

当たり前ですが、登山をするには山に行かなくてはなりません。
その際、電車やバスでの移動が考えられます。
登山の対象となる山域は市街地から遠くにあることが一般的であることを考えると、自ずと長時間電車やバスに乗車していなくてはなりません。
現在、バスや電車では以前より積極的な換気が行われているとは思われますが、乗客同士が近接した状態で密閉空間に長時間乗車していれば感染の危険性は高くなります。
また、自家用車での移動であっても有名な山域ではマイカー規制が行われていることが多く、最後のアプローチはバスやタクシーに頼ることも多くなると思います。登山口が遠ければ遠いほど感染の危険性は高くなります。
感染者が多い都市部から移動で地方にウイルスを運び出す媒介者となることも十分考えられます。
山小屋での感染

非常事態宣言が出ている現在、日本のほとんどの山小屋では営業を自粛している状態です。
研究員のような初級ハイカーや登山者は登山での負担を軽減し、快適な山行を実現するために山小屋に宿泊することを前提に登山をすることもあるかと思います。
小屋泊登山では、テント等を持って山に入る必要がありませんので、これだけで最低でも2㎏程携行装備を減らすことができます。山での歩行で疲れた身で夕暮れ時に幕営し、早朝撤収しなけばならないことを考えるとかなりの労力と時間を削減できます。
また、料金を支払えば暖かい夕食や朝食を摂ることもできます。クッカー・バーナー・燃料を考えるとさらに0.5㎏以上は携行重量を削減できます。
このような利便性と安心感から山小屋を利用する人は少なくありません。
施設を供用すれば感染の可能性はあります。
また、6月くらいまでは標高2500mを超える高山帯は十分な積雪が残っており、標高2000mを超える山小屋ではほとんどの場合石油ストーブが稼働を稼働させています。基本的に小屋内でもかなり寒いのに加え、戸は可能な限り締め切り、就寝まではストーブのある食堂や談話室に密集することになります。
自ずと感染のリスクは増大します。
また、テント泊前提であっても山域での予想以上の悪天候や、予想を超える体力の消耗で避難的に突発で宿泊される方もいます。
多くの山小屋では、事前予約ではない場合でも、何かしら問題を抱えている登山者の宿泊を断ることはほとんどありません。小屋に収容スペースがある限り泊めてもらえます。
山小屋では遭難の危険性のある登山者を収容しないという選択肢はありません。多分、あからさまに熱があったり咳きこんでいる登山者が現れても断ることはないと思います。
さらに、営業として開けない山小屋であっても避難場所として「冬期小屋」として裏手の扉等を開放している場合があります。
この冬期小屋を計画的に利用する方や、天候不順から避難する登山者もいることと思います。こういった場合も狭いスペースで人間が密集することから感染の可能性が上がります。
同行するパーティーメンバーへの感染

山に単独で入るのはそれなりに技術と経験が必要です。
まだ、積雪(残雪)のある寒い山であればなおさらです。
パーティーを組めば、少し大きなテントの分の重量を分散させることもできますし、アクシデントの際の同行パーティーメンバーからの救出や救助要請を期待することができます。
しかし、テントを二人以上でシェアすれば、狭い空間で行動時間以外の長い時間を過ごさないといけないわけですから、他のメンバーが感染していれば感染の可能性は十分にありえます。
救助隊への感染

いくら準備をしていても、体力があっても自然が相手であるだけに遭難の危険を完全に回避することは不可能です。
救助にはどうしても要救助者に接近する必要があります。
救助する側も新型コロナウイルス感染の危険性を抑えるために、息苦しい医療用のN95マスク等の感染防止装備などを装着する余裕はないと思います。
また、ヘリコプターでの搬送となれば、短時間ですが密閉されたヘリコプターの機内で感染が起こらないとも限りません。
想定される影響
遭難の危険性の増大

新型コロナウイルスは潜伏が長く、無症状のまま感知する場合もあるようですが、発症すると短時間で重症化することもあります。
発症は肺炎という形で表に現れるため、循環器不全から行動不能や正常な判断が困難という事態に陥ってしまいます。
そうなれば、症状を自覚してから安全に下山することは決して簡単なことではありません。
体力・技術・気力が十分でも安易には考えられない山行だけに、遭難は考えられない問題ではありません。
現在ではメディア等で新型コロナウイルスの症状は広く知られるところですから、すれ違う他の登山者も近づくのを躊躇するかもしれませんし、同行するパーティーメンバーも下山をサポートするのが難しくなります。
日本では登山愛好家の多くが、新型コロナウイルス発症で重症化しやすい中高年以降の比較的高齢群に属するということも見逃せない点です。
医療資源の占有

新型コロナウイルスが中等症以上の形で発症すれば治療には多くの資材だけではなく、医療スタッフという人員を要します。
新型コロナウイルスに対してワクチンや特効薬・画期的な治療法が開発され、他の感染症、とりわけ先進国では克服したといわれる感染症程度の脅威になるまでは、小規模の市中感染を繰り返して人口の六割程度まで抗体を持つ人を増やすことで爆発的感染を予防していくしか方法がないといわれています。
この方法は医療資源に余裕を持たせ、中等症以上の患者に十分な医療が提供できる状態を維持することが前提になります。
そんななか予期しない感染で病院に搬送されると、自粛生活の中でライフライン維持のために働いている方たちのために使われるべき医療資源を占有してしまう可能性があります。
また、登山の対象となる地方は新型コロナウイルスに対する医療体制が十分でない地域もあり、都市部の人間がその医療資源を無計画に使ってしまうことは避けなければなりません。
人命の損失

当たり前ですが、発症した場合には即効性の特効薬があるわけではなく、感染力が強く感染症ですので、感染し重症となれば最悪の場合死に到る可能性があります。
救命救助体制の崩壊

一番懸念されているのは、山岳警備隊や防災航空隊といった救助者への感染です。
山域における行政の救助というと各都道府県の山岳警備隊が担うことが多いです。山岳警備隊は各山域における登山と救助のエキスパートであり、養成には長い時間と特別な訓練を要します。
そのためどうしても少ない予備人員で業務を行わなくてはいけません。
そんな中、新型コロナウイルス感染者の救助活動等を行ってしまうと、救助にあたった救助隊員が待機状態になったり、発症すれば長期間現場からの離脱を余儀なくされます。
こうなれば、大幅な戦力不足にとどまらず救命救助体制が維持できない可能性もあります。
事実、既にそれに結びつきそうな事案が発生しています。
また、県警のヘリコプターや防災航空隊のヘリコプターのクルーも養成には相当の資金と時間を要するため予備人員が少ない状態で稼働しています。
こういったヘリコプタークルーへの感染も救命救助体制の力を大きく削ぐこととなります。
救助にあたるヘリコプターも普段から登山者以外の救命救助に用いられているので、本当に必要としている方への役立てられなければなりません。
山域でもライフライン維持に従事しておられる方は多く存在します。そういった方のもしもの時の救命救助体制を維持するために、レジャー目的の登山者は救助に頼ることにならないように入山する自体を自粛する必要があります。
世間への登山者への風当たり増大

いくら山で感染していなくても、山からの搬送者が後に新型コロナウイルスの感染が判明すれば、医療資源の占有や救助体制への負担増大の名目で世間から「登山者は自身のレジャーや行楽で他人に迷惑をかける奴だ。」というバッシングが巻き起こること容易に想像できます。
以前からも「趣味で山に登っているのに公金で救助するのは何事か?」という厳しい意見は山を登らない方々から出てきて久しいです。
これ以上登山者の社会的立場を悪くしないためにも、登山を自粛することをお願いいたします。
それでも山に行きたいときの解決策は?

とにかく遭難しなさそうな難易度の低い自宅から近い山に単独で自家用車でお出かけするくらいしかないのではないかと思います。
一方で難易度の低いコースが登山者で混み合うという事態も発生しています。
自家用車を所有していない方は当面の間山行を自粛するしかないと思います。
さらに自家用車で山域にアプローチしても、登山口近くの駐車場が封鎖されていれば帰るしか選択がない場合もありますが、我慢をお願いしたいと思います。